Kindle開発者の語る『読書の未来』を読んで思った、本と電子書籍と建築についてのこと
『本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」』という本をKindleで読みました。著者のジェイソン・マーコスキーさんはAmazonのマネージャーやエバンジェリストとして、Kindleの開発にプロジェクトの開始からずっと関わってきた人だそうです。元々かなりの読書家であったという著者が、Kindleやその他の電子書籍リーダー、紙の本などを横断しながらこれからの読書について語る本になっています。
目次
章はたくさんに分かれていますが、それぞれはそんなに分量が多くないので、割とさくさくと読み進められます。各章の最後には、「表紙」や「作家のサイン」などのトピックについて、紙の本と電子書籍の違いを考察するコラムが付されています。
- 本の歴史
- 電子書籍の起源
- キンドルプロジェクトの始まり
- キンドル2、更なる高みへ
- 競争の始まり
- 神経生物学からみた読書
- 読書文化の存在意義
- つながりを深める本
- 短命なテクノロジー
- 電子書籍の普及学
- 出版業界の革命的変化
- わが蔵書はクラウドへ
- グーグルが「読書用フェイスブック」になる日
- グローバル化
- 変容する言語
- 本と教育
- 図書館の未来
- 電子書籍リーダーの未来
- 作家の未来
- 文化のデジタル化
- 読書は「廃れゆく文化」か
読んでみて
「読書」「本」という題に対して、かなり幅広い方向から述べられているので、軽い感じで読み進められる割に刺激が多い本です。
「読む」という行為
著者によると、本は「読む」ことに特化したメディアだといいます。ここでいう「読む」とは、たとえそれを見終わった後であっても、その世界に入り込み想像を膨らませることです。テレビや映画、ゲームは、いくらそこに没頭していようとも、いわば刺激に反応しているにすぎない。それを観終わった後に内容を反芻したりして初めて「読む」ことができるのです。テキストだけの本は想像の範囲が広い、言い換えると情報量が少ないため、「読む」ことに適しているメディアだと言えます。ぼく個人的には、電子書籍はデジタルであるが故の利点を最大限活かすべきだと考えています。内容によっては、インタラクティブなものになったり、映像や音声とセットで体感できるような本があっても良いと考えていますが、それは著者に言わせると「電子書籍の本当の魅力」ではないそうです。
では電子書籍の本当の魅力とは何でしょうか。「読む」という行為を促進させる装置として電子書籍を考えてみると、それでもやはり個人的には映像や音声とセットになった体験ではないかと考えます。確かにテキストに比べると想像の余地は一見減りそうに見えますが、映像はテキストと違い、映していない外側を想像させる力があります。あくまでテキストは、描かれている主題について深く読み込む想像には向いていますが、まったく描かれていないことについて想像することはかなり難しいのではないでしょうか。映像は、たとえ二人の人間が会話しているシーンであっても、その背景を通り過ぎる人や、映っている空など、周辺の環境が描かれることで、主題となっている人の心情までがより鮮やかに感じられたりします。
例えばアクションシーンをテキストではなくそのまま映像にしたならば、想像の余地は全くないかもしれませんが、テキストで描かれる主題をとりまく環境として、映像や音声を取り入れることは、電子書籍の本当の魅力に繋がるのではないかと思います。
書物の建築化
かつて、ヴィクトル・ユーゴーは「書物が建築を殺すだろう」と言ったと言われています。それまで知の集積場であった建築が、その役割を書物に取って代わられるという意味だと理解しています。
かつて人々は建築に集い、神のお告げを受けたり、古今東西の資料を見たりしていました。建築が知の集積場であり、人々が集う場でもありました。写本もありましたが、非常に手間がかかるため、みんなが手軽に読めるものではありませんでした。
グーテンベルグによる活版印刷以後、多くの人が書物に触れることができるようになり、それぞれがそれぞれの本を読むようになりました。知は建築から個々の書物に移り、人が集まる場も変わっていきました。
16世紀の富裕層は、総じて印刷技術を使って作られた本は読みたくないと考えていたという。それまでは文章を手書きで書き写した「写本」が本の主流だったのだが、その写本と比べ、印刷された本は人間味に欠けると考えていたためだ。
いま、PCが普及したことで、知は本からPCへ移動しました。誰かが書いたテキストはインターネット上で公開され、みんなそれをダウンロードしてみるようになりました。
各自がPCに向かい、ダウンロードしたテキストを読みます。ダウンロードしたテキストはいわばスタンドアロンで、他の読者に影響を与えることはありません。
電子書籍はクラウドで管理されているため、読者はクラウド上の本を「読みにいく」ような形になります。(分散されているとはいえ)
そこでしおりを着けたり注釈をつけたり、その本に関する議論を交わすことができます。書物が昔で言う建築の役割を担うことができるようになったのです。
物語に読者の注釈が添えられるようになると、本は公会堂のように人々が議論を交わす場所となる。そしてその議論の内容は、これからその本を読む読者のために記録される。
本を建築として捉えることができたならば、その設計も幅が広がるような気がしています。「読み心地」が良いだけではなく「居心地」が良い本とは何か、であったり、本によって読む人たちが変わってくるだろうから、その場作りも変わっていった方がよいかも、だったりだとか。「本」というコンテンツ周りの環境をどのように設計していくか、ということについて、建築設計の考え方を取り入れてみるのも面白いのでは、と感じた本でした。