「やる夫スレ」考 〜文字について〜
やる夫スレを読むのが趣味だったりします。夜な夜なPCを立ち上げてまとめスレを見るのですが、よくよく考えてみると、この「やる夫スレ」というのは、かなり面白い文化であるように思えます。そこで、ちょっとそれについて考えてみることにしました。
やる夫スレって?
「やる夫スレ」とは、2ちゃんねるやしたらば掲示板などの掲示板上でAA(アスキーアート)を使って表現される創作物です。AAで描かれたキャラクターと言葉によって物語が描かれていく、雑に言えば「絵本とマンガの間」のようなものです。
掲示板上で様々な人が自分のスレッドを建ててそこにAA付きのレスをつけていく形で作られていき、読んでいる人たちは、同じくレスをつけて感想を残していきます。そして、掲示板上に残されたレスはまとめブログによってまとめられ、一冊の本のようにネット上に保管されていきます。ちなみに「やる夫」とは、頻繁に現れるAAキャラクターの名前です。派生系として「やらない夫」「できる夫」などのキャラクターも存在しますし、アニメやマンガのキャラクターがAA化されたものも数多く存在します。
例(オススメやる夫スレ)
やる夫スレは本当にたくさんあります。恋愛もののストーリーから、知るとちょっと物知りになれる歴史や伝記物、はたまたゲームや小説をAAに仕立て直す二次創作も多くあります。
その中でいくつかオススメを挙げるので、ぜひ読んでみてください。
Macやスマホだと行間や文字間の関係上、キレイにAAが表示されません。Macの場合はChromeの拡張機能を入れるなどの処理が必要です。
- とりあえず世界が終わるまで
ファイナルファンタジー6の二次創作。世界崩壊までのストーリーを、原作では敵国だったガストラ帝国側にフューチャーして描いた物語。改変が色々ありますが、その結果、歴史大河みたいな作品になってる気がします。
- やる夫がロボ子と日常を歩むそうです
SF系ストーリー。宇宙からの侵略者との戦争に勝ち抜いた人間たちが戦後、四苦八苦しながら日常を取り戻そうとする物語。ちょっとやる夫スレ慣れしていないと難しいかもしれないけど、設定の緻密さは素敵。
- やる夫が雀荘デビューするようです
学生時代このスレを読んでから、ネット麻雀のランキングがめっちゃ上がりました。
やる夫スレ(AA)で使われる文字について
ここからが本題です。
たとえば「(・ω・)」という顔文字には語句を括る「()」や語句を並列に並べる「・」、ギリシャ文字の最後の文字「ω」が使われています。しかしそれぞれの文字が元々持っている機能は全く関係なく、なんとなく目のように見えるから「・」を目にしてみたり、何となく口(鼻?)に見えるから「ω」をそう使っているだけです。つまり、AAは様々な種類の文字をその「形」にだけ着目して作られていると言えます。「/」だって、「スラッシュ」という記号としてではなく、ただの斜めの線として使われます。ある意味文字がグラフィックとして扱われているとも言えます。
とはいえ、そうした使われ方をしやすいのは、もともと私たち日本人になじみの無い文字が多いように思います。「ギリシャ文字の最後の文字」なんて知ってる人も少ないでしょうから、そもそも「意味がわからないただの図形」としてその文字を扱うことができるのがその理由でしょう。
形だけでなく意味も活用される文字
ですが、もともとの文字を活かした形で使われる文字もあります。例えば下の画像。
頭に髪飾りをつけた女性のAAです。髪飾りには「薔」という、植物の「バラ」を漢字で書いたときの1文字が使われています。このAAは「ローゼンメイデン」というマンガに出てくる「水銀燈」という女性キャラクターがAA化されたもので、水銀燈は実際に黒いバラの髪飾りをつけています。つまり、「薔」という漢字は髪飾りの形状を表現するとともに、実際にそれがバラの髪飾りであることも示唆しているわけです。
アニメ版ローゼンメイデンの水銀燈。めっちゃ見づらいですが、頭に黒いバラの髪飾りをつけています。
他の例が下の画像です。同じく水銀燈です。
目を「混」「乱」の2文字にして、慌てている様子を表現しています。もはや目の形にはなっておらず、単に「混乱」というもともとの意味がそのまま使われています。しかし、こうした「意味が活用されている文字」が「形だけが活用されている文字」の中に違和感なく存在しているところに、人間の知覚の不思議さを感じます。
普通に入っている文章
上の図は町並みをAA化したものです。
まずわかるのは、上に時刻らしきものがかいてあり、その下に町並みが描かれている、ということです。すなわち「15:10」という文字はそのままの意味で受け取ることができ、その下の文字列は形だけを受け取っています。さらに、町並みの中には「Cafe」や「VINS desutoroi」といった、おそらくお店の名前らしき文字列がありますが、これも文字そのものの意味をそのまま受け取ることができています。こうした、「文字の形だけ」を受け取るのか「文字本来の意味」を受け取るのかを、複雑な文字列の中から私たちはスムーズに行うことができるのです。(ちなみに、「VINS desutoroi」という文字列は、意味不明ではあるもののなんか意味がありそうな文字列として認識することができます。)
人間は特に意味のない図像の中から「人間の顔」を意識せず抽出してしまうようにできています。それと同じように、意味のありそうな文字列を瞬時に抽出する能力があるのではないでしょうか。
まとめ
以上のように、「やる夫スレ」ではただ文字を並べて絵を作っているだけではなく、「その文字の持つ意味」も巧みに使いながら作られています。これは、人間の知覚をフル活用したとても複雑なことであり、「やる夫スレ」はマンガなどに並ぶ人間の視覚文化としてじゅうぶんに価値あるものでないかと思うのです。
他にも、「やる夫スレ」については考えるべきことが色々あります。
- キャラクターについて
- 引用・アレンジについて
- 時間の流れについて
- 読み手について
じわじわと、こうしたことについてもまとめていけたらと思います。