店頭ディスプレイの運用コスト、および理想の昼飯

先日、会社近くの中華料理屋に昼飯に行ったところ、店頭のディスプレイがかなり抽象的だった。

 ランチセットが二種類。片方は海鮮タンメン、半チャーハンに餃子2つがついてくるセット(便宜上Aセットとする)。もう片方が唐揚or焼肉に半ラーメン、さらに餃子2つとライスがついてくるセット(Bセットとする。「唐揚・焼肉」は唐揚or焼肉を意味する)。

見ての通り、Aセットでは餃子以外のメニューがすべて器と紙に書いた料理名で表現されている。Bセットではライスと餃子以外がそうなっている。パット見、ディスプレイとしてはかなり不足があるように思えるけど、考えてみるとかなり理にかなったものなのでは、という気もしてきた。

 

ディスプレイの運用コスト

まず、これは日替わりランチのディスプレイである。そのため、毎日変わるメニューに対応してディスプレイも運用しなければならない。毎回ちゃんとしたディスプレイをつくるとなるとそれはかなりの手間になるだろうが、この方法を取れば、紙にメニュー名を書いてそれを差し替えるだけで良い。常に固定である餃子やライスはきちんとしたディスプレイにしておく。

毎日の更新コストだけではなく、「パターン分け」の容易さもある。実はAセットの半チャーハン、Bセットの半ラーメンは日替わりではなく毎日固定である。なのになぜ紙に書いたメニューにしてあるかというと、半チャーハンは「五目チャーハン、海鮮チャーハン」、半ラーメンは「塩、醤油、豚骨」から選べるからである。それらをすべてディスプレイしようとすると5パターンの盆を並べる必要がある(さらに「唐揚・焼肉」のパターンもあるので実際は8パターンの盆が必要)。それらをひとまとめにして、コンパクトなディスプレイを実現している。

ひとつ疑問が生まれるかもしれない。「わざわざ盆を出すではなく、看板にメニューを書くだけでいいのでは?」と。写真では半分ほど隠れているが、実際に看板も出されている。金額なんかは看板にしか書いていない。だが、看板だけではわからない「なんとなくの雰囲気・ボリューム」というものが、空の器を通して伝わってくるのではないだろうか。たくさん食べたい男性客などには、この微かな情報が非常に重要だ。

もうひとつの疑問が。「結局メニューの中身がわからないのでは?」。ここは割り切りである。実際この定食屋はお世辞にもオシャレなお店ではなく、行列ができるほど有名なわけでもない。わざわざ遠くから一見さんが押し寄せるような店ではないのだ。おそらく多くの客が常連。そんな彼らからしたら「今日の日替わりは唐揚か」とわかるだけでよい。そんな必要十分の情報が入ったディスプレイなのだ。(常連だけだったら別に看板だけでよくね?という指摘は目をつぶってほしい。きっとそのバランスが絶妙なのだ)

 

想起される理想の昼飯

運用コストもさることながら、「理想の昼飯」を客それぞれが持つことができるのも、このディスプレイの特徴である。むかしこんな記事を書いたこともあったけど、それに近い。具体的な見た目が提示されないからこそ、各自が最もうまそうな海鮮タンメンを思い浮かべることができるのだ。

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ただ、この記事の理屈で言うと「理想の海鮮タンメンを理想のままで残しておくために、注文してはならない」ということになるのだけど、飯は食わないと死ぬのでそこは臨機応変にいきたい。

とは言え、お店の運用コストを削減しつつ、理想的な昼飯まで想起させてくる、非常にアイデアに満ちたディスプレイなのではないだろうか。

 

 

ちなみに、食べたのは「にんにくの芽と豚肉炒め」でした。そんなめっちゃ美味しいわけでもなく、会社からめっちゃ近いわけでもないのであんまり行かないかも。