『宝石の国』読んでからこちらの世界に帰ってこれてない

マンガ『宝石の国』読んだ(未完・現行6巻)。最高すぎて現実の生活が手につかなくなっているので、発散するためにもログを残しておく。みんなにも読んでほしい!

宝石の国(1) (アフタヌーンコミックス)

宝石の国(1) (アフタヌーンコミックス)

 

 

粉々になっても破片さえ集めれば再生する体を持つ「宝石」たちの物語。
自分達を装飾品にしようと襲いかかってくる「月人(つきじん)」との戦いに備えつつ、日々の役割を分担して暮らす彼ら28人。

その中に、月人との戦いに加わることを望みながらも、その身体の脆さと才の無さによって何の役割も与えられていなかったフォスフォフィライト――通称フォスは、宝石たちを束ねる金剛先生から、博物誌を編む役割を与えられる。

ようやく与えられるも地味な仕事に、鬱憤を募らせるフォス。
そんな彼はある日、夜にたった独りで見回りをしている孤独な宝石・シンシャに出会う。

 

pixiv百科事典より 

 

 昔動画が作られたらしいので、雰囲気はそれを見てほしい。クオリティ高すぎて、もしちゃんとした劇場版か地上波アニメが作られたとしたら、円盤を買ってしまいそうだ。


市川春子最新作、『宝石の国』1巻発売記念フルアニメーションPV

 

感想 

この作者のマンガは昔「虫の歌」を読んだことがあって、細かい内容は覚えてないけど「生や死を含めて、自分みたいな一般民とは全く違うレイヤーで展開される話を描く漫画家だなあ」と思った記憶がある。

このマンガもそんな感じがあって、月人との戦いのシーンが多く描かれるのだけど、それは通常のバトル漫画とは全く異なる。簡単に言うと「敵にやられるシーンが美しい」のだ。

彼らは人型だけど宝石で、普段は白粉を表面に塗って人肌みたいになっているけど、実際は硬い鉱物だ。月人の攻撃を受けると、彼らの表面は剥がれ、ヒビが入り、宝石としての輝きを露わにする。血は流れず、内臓もなく、砕けて飛び散っていく。月人は晴れた日の昼しか現れないので、太陽の光を反射してキラキラと光り輝く。そのシーンがどうしようもなく美しい。上のYouTube動画に書いてある「強くて、脆くて、美しい」がある意味すべてを表現している。

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2巻 第九話より

 

彼らは粉々になっても繋ぎ合わせれば再生するため、砕かれることが即ち「死」ではなく、破壊が必ずしも悲しいものではない。むしろ、宝石たちはある程度砕かれるのを当然のように思っており、そのせいか、破壊のシーンは作中ではとても静かな描かれ方をする(決定的な破壊のシーンは大抵の場合擬音語が描かれない)。その静けさと宝石の美しさで、バトルシーンなのにまるで絵画のような表現になっている。絵画を鑑賞している気分になるからと言って、読んでいるこちらがそれを痛々しく感じないわけでもない。宝石たちが月に連れ去られたときの喪失感は静かだが大きい。その、美しさと悲しさの共存がたまらなく新鮮なのだ。

 

キャラクターである宝石たちもとても魅力的である。性別が無く、なんとなく女性っぽい/男性っぽいキャラクターはいるが、まさに中性という感じ。「死」というものがないためか、皆それぞれの価値観を持っており、それがうまい具合に読んでて心地よさがある(「虫と歌」でも思ったけど、我々とは全く異なる死生観を持つキャラクターを描くのがとても上手い作家だなと感じる)。

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2巻 登場人物紹介

 

そんなキャラクターたちを見てて飽きないだけでなく、この世界の真実に主人公フォスが迫っていく展開も個人的には大好物。「博物誌を作る」という仕事を与えられたフォスはいろいろな宝石たちと話をしていくことになるけど、そのなかでダイヤモンドがさらっと言った言葉が記憶に残っている。

フォスにもわかるの?じゃあこの気持ちに名前をつけて。名前がわかれば少し安心でしょ?だって博物誌はあらゆるものを分類するって…

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1巻 第三話

 

僕らは得体の知れないものに名前をつける。空から降る水に「雨」という名前をつけたし、自分たちの手に負えない超常的な現象をもたらすものに「神」という名前をつけた。名前をつけることで、その輪郭が見え、皆で共有することができ、「少し安心」する。宝石たちも、自分たちがいる世界のことがよくわからず、ただ月人と戦うだけの長い日々に少なからず不安を覚えているのだろう。自分が何のために生きているのか。世界に名前がつけられていくにしたがって、彼らも、少しは穏やかに過ごすことができるのだろうか。

 

そして僕も、この本を読んでなんとなく湧き上がっているこの気持ちの名前がまだわかっていない。