流行語大賞は「言葉」を選んでほしい

先日、流行語大賞2015の候補語50語が発表されました。

爆買い/インバウンド/刀剣女子/ラブライバー/アゴクイ/ドラゲナイ/プロ彼女/ラッスンゴレライ/あったかいんだからぁ/はい、論破!/安心して下さい、穿いてますよ。/福山ロス(ましゃロス)/まいにち、修造!/火花/結果にコミットする/五郎丸ポーズ/トリプルスリー/1億総活躍社会/エンブレム/上級国民/白紙撤回/I AM KENJI/I am not ABE/粛々と/切れ目のない対応/存立危機事態/駆けつけ警護/国民の理解が深まっていない/レッテル貼り/テロに屈しない/早く質問しろよ/アベ政治を許さない/戦争法案/自民党、感じ悪いよね/シールズ(SEALDs)/とりま、廃案/大阪都構想マイナンバー/下流老人/チャレンジ/オワハラ/スーパームーン北陸新幹線/ドローン/ミニマリスト/ルーティン/モラハラ/フレネミー/サードウェーブコーヒー/おにぎらず

http://singo.jiyu.co.jp/

世の流行に疎い自分にはわからない言葉も正直多いのですが、知ってる候補語に関しては、わりと違和感をもっています。流行語というより、ただ「流行ったもの」が挙げられている気がする、ということです。

言葉じゃなくてモノ・コトが選ばれている

たとえば「火花」。ピース又吉芥川賞受賞作ですが、これはたんにピース又吉の小説が流行った」だけであって、「火花」という言葉が流行ったわけではないと思うのです。
ほかにも「ラッスンゴレライ」とか、芸人のネタフレーズがいくつかあるように思いますが、これもたんにその芸人が流行っただけじゃないでしょうか。

ほかには、「スーパームーン」とかは今年スーパームーンがあったってだけだったり、「サードウェーブコーヒー」は今年ブルーボトルコーヒーが来日して話題になっただけだったり、たんに今年のトピックをかき集めたという感じがします。別に流行語大賞」じゃなくても「今年流行ったモノ大賞」でも余裕で成立しそうです。
「流行語」という言葉に関する冠を持ってその年1年を見渡す賞が、今年のトピックをただたどるだけ、というのはいささか寂しく感じます。

言葉の由来から外れていくこと

言葉にはとうぜん由来があります。「国民の理解が深まっていない」は2015年8月21日の阿倍総理と山本議員の発言らしいですし、「レッテル貼り」もいつぞやの阿倍総理のセリフ。「はい、論破」は昔からネットでは使われていた気がしますが、今回の受賞に関してはドラマの中で出てくるフレーズらしい。どんな言葉でも「誰かが使った/使い始めた」という由来があります。

ただ、その言葉をそのまま流行語大賞とするのは、「その由来となっているモノ・コト」を表彰しているだけに過ぎません。きちんと「言葉」を表彰するには、その由来から離れていって、なお意味を持っている/使われ続けている必要があるんではないでしょうか。

たとえば1997年の流行語大賞は「失楽園(する)」です。「失楽園」自体はただの小説で、それだけなら上で書いていたコトと同じなのですが、「失楽園する」という言葉も大賞に含まれています。「中年男女が不倫する」という小説の内容から、不倫することを失楽園する」と言うようになった。これは元となった小説自体から離れて、言葉自体が意味を持つようになった良い例だと思います。ここでいう「失楽園」は小説のことを指してはいません。

ほかにも芸人のネタだったら、「その芸人ネタのまねをして使っている」うちは、その言葉は由来から離れられていない。もはやその言葉が芸人のネタであることをみんなが忘れて、それでも面白いからみんなが使い続けられるようなものこそ、「言葉として流行っている」と言える。(もしかしたら「武勇伝」とかはそういう感じかも。)

2015年の候補語のうち、そうなっていると個人的に感じるのはいまのところ「ドラゲナイ」くらいです。これはもともと「ドラゴンナイト」という曲の「ドラゴンナイト」というフレーズが「ドラゲナイ」と聞こえる、とネットで話題になったものなので、そもそもが「ドラゴンナイト」という由来から離れた言葉です。
ほかにも「爆買い」「粛々と」「はい、論破!」なんかは、うまくいけば由来から離れて使い続けられそうなポテンシャルを持っている気がします。

正直なところ、「由来となっているモノ・コト」ではなく「言葉自体」を表彰するのは非常に難しいと思います。世の中に溢れかえるフレーズがどのように使われているのかを知って、表彰する。非常に難しいのですが、だからこそ東大名誉教授とかジャーナリストとかクリエイティブ・ディレクターとか、錚々たる専門家が選考委員会を組んで選出しているのだと思いますので、ぜひ「言葉」を選んでほしいと思います。