文化庁メディア芸術祭 2015受賞作品展に行ってきた

第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展を見てきました。
アート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門、マンガ部門と、幅広い分野からさまざまな作品が集結し、なおかつかなりクオリティが高いため、この展覧会は毎年非常に楽しみにしています。

展覧会

いくつか会場があるらしいですが、メイン会場である六本木の国立新美術館へ。かなりの展示スペースを使っており、これだけの展示にもかかわらず入場無料というのが激アツです。開催期間が2週間程度と少し短いのが残念。

国立新美術館

みんな大好き国立新美術館

かなりの作品数があり、しかも映像作品は10分以上あるものも多いため、全てを見尽くしたというわけには行きませんでしたが、気になった作品について書いていこうと思います。

センシング・ストリームズ ー不可視、不可聴(坂本龍一 / 真鍋大度)

センシング・ストリームズ ー不可視、不可聴

坂本龍一Rhizomatiks真鍋大度によるインスタレーション。都内何カ所かに置いたセンサーで電磁波をキャッチし、それを大型モニターとスピーカーで映像と音にする作品。
展示会場にもセンサーが設置してあり、会場内にまき散らされている電磁波をキャッチしてリアルタイムに可視化・可聴化もしていたそう。モニタの前にはつまみが置いてあり、それを回すことでフォーカスする電磁波の周波数を変えることができる。美術館内に置いたセンサーでは、70〜80MHz(ラジオ)の電磁波はあまりなかったらしく、映像(と音)はやや穏やか。対して500Mhz付近(携帯電話)や2,000Mhz以上(Wi-Fi)はかなり映像も激しくなる感じでした(ただぶっちゃけ変化は微妙な感じ)。

この手のメディアアートでいつも思うのは、「利用したデータとその表現方法の関係」が全然語られないということ。この作品では8種類ほどの映像・音が用意されており、それをつまみで切り替えられたのだけど、なぜその8種類なのか、データを使っているのは分かったのだけど、そのデータを使っていったい何を表現できているのか、全く分からなかった。正直なところ、映像や音だって適当にノイズを与えておけば、観る側は勝手に「うーん、周波数を可視化・可聴化するとこうなるのかー」とか深読みしてくれるかもしれないのだ。メディアアートではそのあたり、提示されたデータと現前している表現が無条件で結びつけられているのがいつも気に食わない。この作品でも残念ながらそれは解消されなかった。

これは映画ではないらしい(五島一浩)

これは映画ではないらしい

映画はふつう秒間24枚とか60枚とかのコマによって構成されるが、その概念を取っ払った作品。
撮影時に324本の光ファイバーとフィルム1枚、さらにフィルムを移動させるハンドルを用いて、324画素のドット絵の時間変化をフィルムに記録する。それを再び光ファイバーを通して投影することで、映像を断続的なコマではなく連続的な時間変化として再現する。

非常に面白い作品だった。そのコンセプトから記録されたフィルムの見た目まで、全てが作品として成立していた。写真というメディアの登場以後、時間は連続的な流れとして存在しており、その瞬間瞬間は個別に切り出せるものである、という考え方が常識になってしまったこの世界で、あくまで時間を切り出さずに映像を作る、ということの本質的なこと。
今回一緒に展示を見て回っていた友人が、「光ファイバーの配置を変えることで、一画面に異なる時間が存在する映像が作れそう、面白そう」と言っていたが、それは本当に面白そう。

会場では実物のカメラ兼映写機が展示されていたが、そこで映される映像は非常に小さいため、皮肉にもその映像を別のカメラで撮影し、それを壁に投影するという展示構成を取っていた。カメラで映された時点でそこに「コマ」が発生してしまい、壁に投影されているのはただの「映画」になってしまっていたはずなのだけど、そのことに気づいている人はどれだけいたのだろう。

のらもじ発見プロジェクト(下浜臨太郎、西村斉輝、若岡伸也)

http://noramoji.jp/

以前からWebで見ていた作品。古い町並みのお店の看板など、カッコよくはないけど味のあるフォントを収集し、それをもとに50音のフォントを作るプロジェクト。作られたフォントはネット上で寄付を募りながら提供され、その寄付金の一部がもともとフォントがあったお店の人に支払われる、というエコシステムの開発でもある。

街中で見かける何ともいえないフォントの文字にはずっとA4タイポグラフィという形で接していたので、こういったプロジェクトも当然面白い。そこからTシャツ販売とかまで展開しているその可能性もすごい。

3RD (Hedwig HEINSMAN / Niki SMIT / Simon van der LINDEN)

3RD

個人的に今回一番アツかった作品。ちょっと広めのスペースに5人程度がみんなマスクを被って歩き回る、体験型展示。
マスクの中にはモニタがついており、天井から展示スペースを撮影している映像がリアルタイムに映されている。つまり、参加者は自分を含めた会場全体を俯瞰的に見ることができ、自分の視界に上から見た自分がいるという、普段ほとんど起こりえない状態の中を歩き回ることになる。しかもマスクはそれぞれ微妙に差はあるが、どれも似たような形をしているため、見た目ではどれが自分かを判断することはできず、動きを見てどれが自分かを判断しなければならない。(それをより感じさせるために、途中でモニタを切るというのがあってもよかったかも)
ふだんわたしたちは自分を誰かと間違える、間違えそうになることなんてないけれど、それを体験することができる、とても面白い作品だった。

ちなみに慣れてくるとだいぶ速く歩けるようになるが、映像にタイムラグが発生してしまい、危険なためゆっくり歩くように言われてしまった。逆にその状態はよけいに「自己」の認識が難しくなる面白い体験なのだと思うのに、もったいない。

全体的に「身体」に寄ったものが多かった気がする

マンガ部門は正直あまり見なかったのでなんとも言えないが、他の3部門に関しては、鑑賞者の身体性に訴えかけるものが多かった気がする。
去年はビッグデータ盛り上がりだったためか、ただひたすらデータビジュアライゼーションばかりだった気がするが、今年はそういったものはほとんどなく、「3RD」のような没入型の作品だったり、「INGRESS」のような現実世界を動き回るものであったり。アニメーションに関しても、耳が聞こえず口も聞けないカップルが手話という身体的な言語でコミュニケーションをとるものだったりと、単に見るだけではない感覚を与えるものだった。

最近はOculas LiftとかのVRも流行ってきている中で、やっとデジタル本来の身体性が少しずつ芽生えてきたように感じる。ある意味UXとかとも関係してくるが、デジタルによって、無駄に体を動かす必要が無くなった(PCを操作してるだけでものが買えたりする)が、その反面「じゃあ体を動かすってどういうことか」ということに焦点が当てられてくる。それがビジネスに取り込まれていくにはまだしばらく時間がかかりそうだけど、そういったことは常に頭に入れて日々の生活をしていかなくちゃいけない。