「見えないつながりを発見する」、3331熱中教室(2015冬)に行ってきた(2)

前回アップした3331熱中教室(2015冬)の記事の続き。「見えないつながりを発見する」と題した、多摩美術大の菅俊一さんの授業。

菅さんの共著である「差分」を学生時代に読んだり、ネットで連載していたAA'=BB'を読んで以来、ぜひお話を聞いてみたいと思っていたのが今日実現した。

前回のメガネ男子授業と同じく「起立、礼、着席」の号令で授業開始。

新しいアイデアを生み出すのに、才能は必要ない

授業の冒頭、菅さんが語りだす。「まず人生において、新しいアイデアを生み出すことは重要です。そうでないと、他人のアイデアにのっかって生きていくだけになってしまい、自分の人生のイニシアチブがとれなくなってしまうからです。それなのに、新しいアイデアを生み出すことって、何かしら才能がある人たちのやることだとか、才能が無いから自分にはできないとか言い訳してる人が多い。けど本当にそうなのか?実は、新しいアイデアを生み出すことには才能なんか必要なくて、鍛えてのばしていくスキルなんじゃないかと思うんです」(意訳)

なんか、聞いていてうなずきたくなる台詞です。

「では、どうやって新しいアイデアを生み出すのか、それが『見えないつながりを発見する』ということです。」

ここら辺は以前から聞いたことのある話です。ジェームズ・W・ヤングという偉い人(?)が書いた『アイデアのつくり方』でも「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせである」というように書かれており、これは最近のサービスデザインとかイノベーション界隈でもよく聞くことです。

ただ、いくら聞いたことがあると言っても、できなければ意味が無い。それができるようになるための訓練がこの授業なのでした。

見えないつながりを発見する、キーワードは「抽象化」

物事の見えないつながりを発見することで、驚きを生むことができる。今日はその「見えないつながりを発見する」訓練を行いました。

訓練の手順は3つ。

  1. まず、ものの「特徴」をひたすら洗い出す
  2. 次に、「特徴」を「図式化(抽象化)」する
  3. その図式が当てはまる他のものを探す

これを行うことで一見見ることのできない「つながり」を見出す(こじつける)ことができるとのこと。しかしこれがそんなに簡単ではありませんでした。

まず、ものの「特徴」をひたすら洗い出す

まずテーマを決める。ここはとりあえず何でもいいので、配られたプリントにあらかじめ書かれていたものの中から好きなものを選びます。今回は「電車」を選びました。
テーマを選んだら、10分ほどかけてそのテーマの特徴をひたすら書く。たとえば電車だったら「中にたくさんの人が乗る」「動いたり止まったりを繰り返す」とか。レベル感が合ってないとか、前に書いたやつと似てるとか、そんなの気にしないでひたすら書いていく。

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こんな感じになりました。洗い出しに詰まったら、色々な前提条件を変えてみると良いようです。「場所(地上で見たら、地下で見たら、内部から見たら)」や「時間(朝見たら、夜見たら、明治時代だったら)」、「立場(大人から見たら、子供から見たら、車掌さんから見たら)」を変えて見てみると、今まで出てこなかった特徴が出てきます。

次に、「特徴」を「図式化(抽象化)」する

これでもか、ってくらい特徴を書き出したら、その中から一つを選んで、それを図式化します。選ぶ特徴は、これも何でもいいらしいのですが、「みんな思いつかないだろうけど、言われたら納得してしまうようなもの」を選ぶといい感じらしいです。今回は電車の特徴として「高低差をつけて交わる」を選びました。

特徴を選んだらその図式化。このときに注意するのは「なるべくそれっぽくならないようにする」ことだそうです。電車の特徴を図式にするときに、それが電車っぽくならないように。図式だけ見てそれが電車って分かったらダメみたいな感じなのだと思います。

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「高低差をつけて交わる」の図式。

その図式が当てはまる他のものを探す

図式を描いたら、今度はその図式が当てはまりそうな全然別なものを探します。「高低差をつけて交わる」であれば「ジェットコースター」とかはそうでしょうし、「組んだ腕」なんかもそうかもしれません。そんな感じで洗い出します。これが結構むずかしかった...。

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こんな感じ。6つ以上って書いてるのに4つしか出てなかった...。

これで見えないつながりが見つかりました。「電車」と「組んだ腕」とか、あんまり繋がらなさそうなものが繋がると素敵とのこと。

制約をつけて観察する

この訓練の基本は、「ものの特徴を洗い出す」ところにあります。
実はこの訓練の前に先生から「教室を見渡して目についた『丸いもの』を3分間でひたすら書き出してください」という問いかけがありました。
実は教室の中には丸いものなんていくらでもあったのだけど、こう言われて初めて「あ、そういえばあれも丸いな」みたいに見えてくる。このように、観察の際に自分に制約をつける(ここでは「丸いもの」)ことで、普段「目には入っているけど見えていない」ものが見えてくるのだと言います。

実例として出されたのが、先生が学生時代に制作に携わっていたという、『ピタゴラ装置』の映像。

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調べたらすぐにわかる、みんな大好きなアレですが、先生がアレの制作に関わっていたときは、渋谷の東急ハンズに行って、あらゆる商品売り場を「ビー玉の通り道になりそうかどうか」という制約をかけて観察してまわったそうです。

たとえばレンゲなんかも、「このレンゲはうまいことビー玉が通りそうだ」という観点で見ていたのだとか。このとき、レンゲの本来の機能である「スープがおいしく飲める」とか「食事が楽しくなる見た目をしている」とかいったことは一切関係ありません。

見つけた特徴を自分の中に貯めていく

大事なのは、普段生活している中で目に入る様々なものにきちんと目を向け、その特徴を取り出していくことなのだといいます。取り出した特徴だけを貯めておけば、いざ新しい問題にであったときにきっとうまく当てはまるものがあるはずだから。

確かに観察は大事ですし、ただ見ているだけじゃなくて、そこから何かを取り出さなければ意味がありません。自分がツイッターとかで色々目についたものをつぶやいたりしてるのも、本当はもう少し「特徴」として整理して取り出す必要があるなと思いました。とにかく、見つけたものはメモでもツイッターでも、言葉にすることが必要です。そうでなければ、人はすぐに忘れてしまうから。