小説「わたしを離さないで」を読んだ

 

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

完全にタイトルに惹かれて買った。この感想書いてる時に知ったけど、今年の初めに日本でテレビドラマ化もされてたらしい。

ジャンルは何になるんだろう。ハヤカワだからSFなのかな、とか思ったけど、読んだ感じSFではなさそう。恋愛小説でもないし、推理小説でもないし、なんと言ったらいいかわからない。

読んでいても不思議な感じがする本だった。解説で「ごく控え目に言ってもものすごく変わった小説」と書かれているけど、わりとその通りな気がする。

基本は主人公の子供時代の回想で話は進んでいく。読んでいて徐々に「この世界の秘密」みたいなものが明かされていってる感があるのだけど、それでも常に「自分はどの程度この世界のことを知っているのか」という不安のような疑問がつきまとうというか。

読んでいてずっとそんな疑問が続く一方で、文章自体はとても綺麗だった。

あの人は、きっとヘールシャムのことをただ聞くだけでは満足できず、自分のこととしてーー自分の子供時代のこととしてーー「思い出したかった」のだと思います。使命の終わりが近いことはわかっていました。 ですから、わたしに繰り返し語らせ、心に染み込ませておこうとしたのでしょう。そうすれば、眠れない夜、薬と痛みと疲労で朦朧とした瞬間に、わたしの記憶と自分の記憶の境がぼやけ、一つに交じり合うかもしれないではありませんか。*1

 

申し上げたとおり、その三時間のほとんどを、ルースは遠く自分の体内に閉じ籠っていました。 *2

 

全体的に穏やかな文体で、綺麗な言葉が使われて、けどあとから読み返すと無意味に綺麗な言葉を使っていたわけではない、そんな無駄のない文書だった。

文章から思い起こされる風景はどれもさみしげだった。ススキかなにか見渡すかぎりの黄色い草原と、いつでも曇り空が思い起こされた。

たしかにストーリー自体も悲しみが含まれるものだったけど、それ以上の寂しさがどこからか染みこんでくる小説だったと、後から思う。終わり方も同じ。決してハッピーエンドでもないし、バッドエンドかと聞かれたらそうでもなさそうな気がする。というよりも本当に終わったのかどうか、自分の中で結論が出ないような、そんな終わり方だった。

*1:第一章

*2:第十九章